ゼミの夏合宿で、愛媛県の内子と松山に行ってきました。目的は農産物直売所の先進事例として有名な内子フレッシュパークからりを中心とした現地調査実習で、今回も多くの刺激的な出会いと重要な教訓がありましたが、そこは学生の共同研究に任せて、ここでは本調査から外れた街角の一場面から。
合宿中日の懇親会を打ち上げて、学生数名と連れ立ってぶらりと立ち寄った二次会の居酒屋が、じつに面白かった。
「地産地消」と入った看板をたまたま見つけ、学生でも大丈夫そうだなと思って、そんなに期待せずに入った、松山の居酒屋です。それが意外と、居酒屋も、人とアイディア次第でここまでエンターテイメントになるのかという、ビジネスの創造性の詰まった空間でした。
ふつう、居酒屋に求めるものは、おいしい肴とお酒、あと雰囲気のいい空間があって、あまり邪魔されずに、人とゆっくり話をできれば満足です。この居酒屋も、そんな本筋を大事にしていますが、しかし、1つ1つの質は高く、そしてプラスアルファがある。
まず、最初の酒の注文を聞いて、持ってくるのが早い。それも、手早く客のテーブルで作ってくれて、出し惜しみなくとくとくと注ぐ。女将が上手に薦めてくれて、出てくる野菜や魚が新鮮で料理の仕方もオリジナル性があって美味しい。そうしながら店員が客と会話して、「石川から来ました」と言っていたら、次のお皿には、いつ作ったのか、「石川さん」の旗が立っていてびっくり。店内のレイアウトはすっきりしているのにディテールが効いていて、小物をきっかけにした話のタネに尽きない。乾杯からデザートまで演出があって、くどすぎず、そつがない。学生が出身地の「ゆるキャラ」の話で盛り上がっていたら、レジを出るときに、それぞれご当地の「ゆるキャラ」をプリントした飴の袋をプレゼントされて、最後は店員一同が温かく店の前まで見送ってくれて、一同すっかり感激して帰路につきました。
金沢の「a.k.a.」さんでも、いつ行っても、料理の演出に創造性があって美味しく、本当に楽しませてもらえるのですが、店舗経営にはまだまだいろんな可能性があるのだなとつくづく感心します。
金沢の場合は、お客さんの側にも一定の文化享受力を求める風土がありますが、この松山の居酒屋の場合は、もっとおおらかで明るいですね。同じホスピタリティでも地域の風土を反映しているように感じました。ここのところ、金沢のしっとりとした玄人好みのもてなし文化に浸っていた私としては、愛媛で感じた人懐こくて元気のよい接遇もまた斬新でした。
ことに女将さんの接客の技量・才能には舌を巻きました。彼女はまだ20代か30歳そこらに見えましたが、話してみると、Iターン組で、東京で大手に就職が決まっていたのを蹴って、松山にやってきたそうです。なんで松山だったのか、と聞けば、「どこで仕事をするかよりも、誰と仕事をするかなんですよ」という答えが返ってきました。
人を楽しませるにはどうしたらいいかをとことん追求し、そのことを通じて自分たち自身が何より楽しんでいて、そして、それが見事に営業・収入につながっている。学生たちもとても感激していたのですが、彼らが一番刺激を受けたのは、居酒屋という業態を超えて、実はこういう働き方をしてみたいんだという「生き様」だったかもしれません。
いま、若い人の働き方のイメージや、居住地選択の基準が、少しずつ変わってきているように思います。一方では、非常に保守的に安定志向が強まっている面がありますが、他方では、安定した所得のための組織の歯車としてではなく、自分自身の社会的目的のための仕事を気の置けない仲間と楽しく実現したいという欲求があって、その間の現実に揺れ動いているようです。しかし、だからこそ、それが形になるときには、このように創造的なスタイルの事業が生まれる可能性があり、その場所は、人とのつながり次第で決まっていく。そのときには、大都市圏より人や地域とのつながりの鮮やかな地方都市が舞台となるのかもしれないな、とあらためて感じた松山の夜でした。ちゃんちゃん。