一年を通じて比較的湿気が高い金澤は、濃い香りに満ちる街であると同時に・・飛行機雲が美しい街でもある。(一般的に湿気が多いほど飛行機雲は出来やすく長く残る) 7月のアタマ、昼間の燃えるような暑さと引き換えにこの日もとても濃く美しい夕暮。 浅野川の天神橋から刻々変わりゆく空とそれを反映する川面を眺めていると、頃合いを見計らった様に飛行機雲が左手から伸び出した。 一本の濃い白い線が、真っ直ぐに真っ直ぐに夕暮の空に描かれていく・・・夕暮のショーに合わせてもう一つのLiveパフォーマンスが彩りを添えている図。 2013年07月01日 19時05分撮影
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旧市街中心部を二重に取り囲む惣構はお城の守りを強固にするために構築された土塁と堀(東と西、内と外で計四本ある)そのため他の用水とは違って片側(この写真だと右側)が盛り上がっている。
元々は堀底から最大9メートルもあったらしい。明治に入ってからかなり埋め立てられてしまったけどアチラコチラに不思議な段差とフワッと抜けた景色を作っている。
狭い路地の中に突然出現する「広見」と同様に「総構堀の段差」は旧市街の重要なアクセント。複雑な地形の面白さをさらに味わい深くするスパイス。
梅雨の半ば、一層鮮やかさを増した紫陽花と湿り気を帯びた石垣、お堀の鈍い煌めきで構成された、さりげなく美しい一コマ。
ここは美味しい飲食店がひしめく柿木畠の入り口。つくる人(料理を)も食べる人も自然に目にする普段の光景。食文化の高さのヒミツ、実はこんなトコロにもある。
2013年06月30日 14時30分撮影
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今年度のゼミでは、昨年文庫本になって再版されたジェイン・ジェイコブズのCities and the Wealth of Nations: Principles of Economic Life, 1984(邦題『発展する地域 衰退する地域』ちくま学芸文庫)を読んでいます。
ジェイコブズは都市計画論、都市経済学、創造都市論などに強い影響を与えたアメリカの著名な女性研究者です。彼女の理論は、既存の学問の応用展開ではなく、現実の都市の実態を鋭く観察することから創造された、通念を打ち破るような独自の都市理論です。
豊富な論点がある本ですが、ゼミで議論になったところを1つだけ紹介します。
ジェイコブズは経済の発展は都市で生じるとして、国民経済を暗黙の前提としてきた既存の経済学を批判します。ジェイコブズによれば、遠方の都市の市場、仕事、移植工場、技術、資本の一部だけを利用している地域は、受動的経済にすぎず、本質的に持続的ではありません。これに対して、輸入置換(import replacement)を通じて、「旧来の活動に新しい活動を付加する」インプロビゼーション(臨機応変の改良)を発揮する「都市」の機能だけが、経済を創造的で拡大的なものにすると言います。
注意したいのは、一般の経済開発でよく期待されるように、先進都市の市場に対して商品を輸出することのみでは、「資源供給地域」という受動的経済にすぎないことです。ジェイコブズによれば、都市経済の発展には3つの段階があり、まず輸出して稼得しなければならず、次に稼得した所得によって輸入を増やし、そして輸入したものを模倣して輸入置換するときにはじめて、創意工夫が集中して発揮される「都市」の発展が起きる、と考えます。
では、新しい「輸入置換都市」は、どこから、いかにして生まれるのか。ここでジェイコブズが重視するのは、後発都市間の交易です。先進地と後進地の間の交易はスプリングボードとしては重要ですが、それだけだと「輸入置換」は進みません。なぜなら、先進地から入ってくる商品は技術力が高く、地元の生産物とは「断絶」が大きすぎて簡単には置換困難だからです。そこで、
後発都市は、他の後発都市を必要とします。
後発都市は、先進地から得た技術や製品を模倣し、同種の製品を必要としている、より後発の都市の小規模な市場にそれを提供します。後発都市同士は発展水準が同程度ゆえに、「輸入置換」が進みやすいわけです。「輸入置換」は、輸入を減らすことではありません。「輸入置換」が進めば、その都市は、地元で生産されるようになった輸入品に代わる別の製品を新たに輸入するようになるので、後発地域間での交易はますます拡大します。しかも、それぞれが単なる模倣ではなく、より安価な地元の資源などを組み合わせたり、地域のニーズに応じた機能を付け加えたりするなど、改良を加えることで、先進地の製品にも対抗しうるイノベーション力を身につけていきます。このように、経済が発展するときには「都市」の機能が重要で、それも複数の「都市」が相互関係性を持ち、ある時点に集中・連続して成長することを、ジェイコブズは歴史を踏まえて理論化しました。
以上のような、都市における交易、とくに後発都市間の交易の重要性については、既存の創造都市論などでは実はほとんど触れられていません。佐々木雅幸先生(1997、2007)は創造都市論の源流としてジェイコブズを引用し、都市のインプロビゼーションに言及しています。確かにインプロビゼーションの視点は都市論と職人論を組み合わせるときに重要ですが、実はそれが強く発揮されるのは、同程度の発展水準の都市間の交易があるときだとジェイコブズは言っているわけです。
例えば、沖縄ではなぜ「都市」が発展しなかったのか。沖縄は国内で最大の観光消費地ですが、1人あたり県民所得は最下位です。これは、沖縄では軍事基地の存在や公共事業漬けの問題ももちろんありますが、1970年代に日本という国家に統合されて、周囲に同程度の発展水準の地域のないまま、本土の先進地と格差の大きな取引(輸入置換の進まない交易)を続けるしかなかった条件に規定されていたからだと、ジェイコブズ的には考えられます。沖縄がアジアの1地域として香港や台湾と同水準で交易していたならば、発展ポテンシャルは今とは大きく違っていたかもしれません。
実はジェイコブズは1984年に書かれたこの本で、日本の将来を悲観的に予測しています。日本の中央部には創造的な輸入置換都市が豊富に存在するが、日本列島の北部および南部の周辺地域では輸入置換都市を生み出しておらず、移植工場や政府の財政補助に頼っているため、この国家の統一(先進−後進地間交易)を重視する限り、いずれ中央日本の諸都市を含めて、創造的な輸入置換の源泉は枯渇し、全体として停滞するであろうと。アメリカではジャパン・アズ・ナンバーワンと言われていた時代に、ジェイコブズは冷静に見通していました。
2013年現在の日本を見る限り、ジェイコブズの予言は怖いくらい当たっています。そして、この視点からすれば、日本の停滞の要因は、都市の機能の低下にあります。いくら成長戦略を立てて、円安を誘導して製造業の輸出を増やしたり、海外観光客を呼び込んだり、TPPで自由貿易化したりしても、国家単位で成長を目指す限りうまくいかない、経済の発展は都市間交易を通じた都市単位の活発なインプロビゼーションの機能がなければ続かない、とジェイコブズには指摘されているわけです。
さて、さいごに話を金沢につなげましょう。金沢の戦略として、東京や海外の大都市に地域の文化資源を売り込んでいくことも大事ですが、それだけだと先進−後進地交易にすぎません。ジェイコブズ的な視点に立てば、後発都市間の交易こそが重要です。北陸地域の他都市、あるいは、アジアの国々の地方都市など、発展水準が比較的近いところと相互交易を進めることが課題になります。例えば、金沢のデザイン系建築設計事務所が連合して中国の大連で事業を展開していますが、金沢で輸入置換された文化的技術をより後発の都市に輸出しているわけです。その次には、大連などで独自の技術の改良が加えられて、今度はそれを金沢が輸入すれば、互いの輸入置換は加速するでしょう。
工芸でも同様です。金沢や石川の伝統工芸を世界の富裕者に売っていく話ばかりでなくて、世界の先進的な工芸技術を金沢が輸入し、それを輸入置換しつつ、地元の技術と組み合わせるなどして改良を加えて、今度はそれを輸出するという相互交易のプロセスをもっと検討してもよいかもしれません。
金沢が登録されたユネスコのクラフト創造都市のネットワークは、実はそのように発展させることを期待されています。ユネスコの創造都市のホームページには、「都市は文化の港である」という一文があります。これは、都市間の相互交易を通じて都市の創造性が発揮されるとしたジェイコブズの思想が込められたメッセージでしょう。