金沢まち・ひと会議

| 火曜日 16 2月 2016

金沢・まち

金沢・まち

「ここは何処?」
こころのなかで叫び、思わず不安もよぎる。

初めてその場に立つ旅人のようだ。

この地で生まれもう半世紀余りを暮らしているというのに、
そんな瞬間をたびたび経験する金沢のまち。
いまだに足を踏み入れたことがない場所ばかり。
無闇に何処へでも入ったら出れないとの経験則から全く知らない所も多い。

それでもちょっとの冒険心に駆られ入ったことのない路地へ入る。
「それにきっと近道だろうし、、」と。
下見板の板壁に挟まれ曲がった細路。生垣、板塀、黒瓦。

 

 

1−1路地

 

その先に道はあるの? とT字路を曲がる。
途端に右も左も北も南もわからなくなり、おまけにお日まさは雲隠れしている。

 

1−2路地奥

 

思わぬ石段、急に出くわした広見そして袋小路。
この路は近かったの?

 

 
1−3階段

 

 

進んでいるのか遠ざかっているのかは勘のみが頼り。
突然に目の前の展望が開けてまた閉じる。
ただ、こんなところがあったのだ!
と少年のこころは満ち足り、その場しか持ち得ない情緒に包まれてしまう。

展望開ける蛤坂やW坂(石伐坂)、陰にあるともなきや近所の名もなき坂は往来してきた。
今ではすっかり有名になった「暗がり坂」を初めて降りたのは40歳を迎える少し前のこと。
金沢のふたつの台地の間を抜ける犀川・浅野川に加え小さな川と用水も縦横に走る。

昔の水路も道になり、
呼称がきっとあるだろう、またそれと気づかぬ坂や橋が沢山に待ち構えている。
きむすこ(木虫籠)と呼ぶ細木の出格子を持つ町家。
その出格子が弁柄に塗られた茶屋街。

小さな子出入口も付いた欅板の玄関大戸。
武家屋敷の土塀、足軽屋敷。
路地通り一本出入するたび、坂を登り下するたびに景色と情緒が様変わりする。

 

1−4土蔵の造り

 

 

我家は城下の南端。北國街道沿いになる。
祖父が子供の頃には近所に関所の跡がまだあったと語っていた。

金沢の町家らしく白い漆喰が塗られた火除けの為のうだつ壁、高さのない二階連子窓。
家の前には「どぼそ」と呼ぶ側溝があり、家に入るにも1尺ほどの小さな橋を渡る。
用水沿いの家となれば、立派な橋を渡ることになる。

 

1−5うだつ壁(里見町あたり)

 

 

 

1−6用水と家の前の橋

 

 

 

一歩家の内に入れば、
後庭まで続く叩きの通り土間。天井のない吹き抜けの柱格子の間も漆喰が塗られ、
土蔵の作りにも似る。

仄暗い中そこに天窓からの明かりが差す。
土間は地下の氷室(ひむろ)にも通じ、年中冷やっこい。
奥や二階に、朱壁の座敷や茶室を備えた家も特段珍しいわけではない。

 

1−7天窓

 

兼六園もかつては金沢のひとの通り抜ける近道の庭でもあり、
城下の住みびとという感じが今よりずっと強かった。

雪は降り始めが綺麗と、早朝の兼六園で足跡のない新雪を踏む楽しみもあった。
唐傘山からの眺めもご馳走のひとつ。
ここも曲がりくねった空間の庭。

お堀の向こうは、石垣・海鼠塀・鉛瓦の金沢城。
城内は金沢大学があったため石川門の枡形までは誰でも入れた。
今は市民も観光客も出入りしやすいよう整備され以前の枡形たる面影は全く薄れている。

 
1−8現在の枡形

 

尾山神社山門に光るステンドグラス。
右も左も前も後ろもお寺ばかりの寺町、東山。

今もって不思議不思議。小さい町にお寺がいっぱい。
そこからは、街並みと川と雪を抱いた山々の眺望が開ける。

 

1−9川と山

 

この歩いて廻るスケールに驚くほど異種な風景が混じり込んでいる場所で、
情緒が体に染み入るように金沢の人は暮らしているのかもしれない

 

1−10曲がる用水と植木、橋